前回は流体の圧縮性と非圧縮性についてで、熱対流を計算する場合は非圧縮性では再現できないことをお話させていただきました。
今回は非圧縮性を使った温度変化を解析する方法についてお話をさせていただきます。
温度差が小さい自然対流の問題という限定された現象で、ブシネスク近似という方法を利用すれば非圧縮性でも熱による対流が解析できます。
ここで、温度差が小さいとは、密度変化が無視できる範囲という意味です。
ブシネスク近似を使用した場合に圧縮性との違いについて、熱対流の事例でよく知られたキャビティ流れのモデルを用いてご説明させていただきます。
相対する壁面に温度差があり、その差により対流が起こる現象について、
非圧縮性で解析を実施すると対流が起こらないような結果になっていました。
これにブシネスク近似を導入しますと、非圧縮性でも熱対流の計算が可能になります。
右図に示しましたのは、高温壁を30℃、低温壁を20℃に設定したときのキャビティ流れになります。
非圧縮性のみの場合では熱対流が起こらなかった事例ですが、ブシネスク近似を用いた場合、熱対流が発生し圧縮性と同様の結果になっていることがわかります。
ただし、温度差が密度変化を無視できない領域では誤差が大きくなり、正しくない流れができてしまいます。
左図に高温壁を500℃に設定した結果を示しますが、温度分布が少し異なり、ブシネスク近似のほうが流速が高くなっていることがわかります。
また、ブシネスク近似は温度差による熱膨張から浮力を計算する手法のため、圧力は正しくない可能性があります。
高温壁を30℃の事例で右図に圧力分布を示しますが、圧縮性の場合は密度と重力の関係で下部の圧力が高くなりますが、ブシネスク近似ではその分布は出ておりません。
これは、ブシネスク近似では浮力を模擬する方法として体積変化量から浮力を計算するのみで静水圧の計算は考慮されていないためです。
非圧縮性での熱対流について、ブシネスク近似を用いた事例についてお話をさせていただきました。
温度差が小さく密度変化が無視できる範囲ではありますが、非圧縮性で計算負荷を下げることができます。