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【流体解析入門】ブシネスク近似による自然対流解析 - 非圧縮性で浮力を計算する方法

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前回の記事では、流体の圧縮性と非圧縮性について取り上げ、熱対流を計算する場合は純粋な非圧縮性では再現できないことをお話しました。
ただ、「流体解析で温度差による自然対流を計算したいけど、圧縮性流体は計算負荷が高い」「非圧縮性では熱対流が再現できないと聞いたけど、何か方法はないの?」「ブシネスク近似って何?どんな時に使えるの?」 そう思われる方も多いのではないでしょうか。
実は、温度差が小さい自然対流の問題では、ブシネスク近似という手法を使うことで、非圧縮性流体でも熱による対流を解析でき、計算負荷を大幅に削減できるのです。
この記事では、ブシネスク近似を用いた熱対流解析の方法と、その適用範囲や注意点について、実際の解析事例を交えながらわかりやすく解説します。

ブシネスク近似とは?
非圧縮性で熱対流を計算する方法

温度差が小さい自然対流の問題という限定された条件下で、ブシネスク近似(Boussinesq Approximation)という方法を利用すれば、非圧縮性でも熱による対流が解析できます。 ここで「温度差が小さい」とは、密度変化が無視できる範囲という意味です。具体的には、空気の場合で温度差15K以内、水の場合で2K以内が目安となります。
ただし、あくまで目安であり解析内容、評価内容、許容誤差により広げても問題ない場合があります。

温度差10Kのキャビティ流れ解析事例

ブシネスク近似を使用した場合と圧縮性解析との違いについて、熱対流の事例でよく知られたキャビティ流れのモデルを用いてご説明します。
非圧縮性では対流が起こらない
相対する壁面に温度差があり、その差により対流が起こる現象について、非圧縮性で解析を実施すると対流が起こらないような結果になります。 これは、非圧縮性では密度が一定と仮定されるため、温度差による浮力が計算されないためです。
ブシネスク近似の導入により熱対流が再現
ここにブシネスク近似を導入しますと、非圧縮性でも熱対流の計算が可能になります。 高温壁を30℃、低温壁を20℃に設定したときのキャビティ流れでは、以下の結果が得られました。
•非圧縮性のみの場合:熱対流が全く起こらない
•ブシネスク近似を用いた場合:熱対流が発生し、圧縮性解析と同様の結果を再現
このように、温度差が小さい範囲では、ブシネスク近似によって非圧縮性でも正確に熱対流を計算できることがわかります。

ブシネスク近似の適用範囲と限界
温度差が大きい場合は誤差が増大

ただし、温度差が密度変化を無視できない領域では誤差が大きくなり、正しくない流れができてしまいます。 高温壁を500℃に設定した結果では、以下の違いが観察されました。
•温度分布が圧縮性解析と比較して少し異なる
•ブシネスク近似のほうが流速が高くなっている
•密度と温度の非線形な関係が無視されることによる誤差
このような高温度差の条件では、圧縮性流体として解析することが必要です。

圧力分布の再現性に制限

また、ブシネスク近似は温度差による熱膨張から浮力を計算する手法のため、圧力は正しくない可能性があります。 高温壁を30℃の事例で圧力分布を確認すると、圧縮性の場合は密度と重力の関係で下部の圧力が高くなりますが、ブシネスク近似ではその分布は出ていません。 これは、ブシネスク近似では浮力を模擬する方法として体積変化量から浮力を計算するのみで、静水圧の計算は考慮されていないためです。

まとめ:計算負荷を下げて熱対流を解析

非圧縮性での熱対流について、ブシネスク近似を用いた事例についてお話しました。
温度差が小さく密度変化が無視できる範囲(空気で15K以内、水で2K以内)という制約はありますが、非圧縮性で計算することで計算負荷を下げることができます。
電子機器の冷却解析や建物の空調設計など、温度差が比較的小さい自然対流の問題では、ブシネスク近似は非常に有効な解析手法です。
一方、温度差が大きい場合や圧力分布の精度が重要な場合は、圧縮性流体として解析することをお勧めします。
解析対象の特性を見極めて、適切な手法を選択することが、効率的で正確な流体解析の鍵となります。

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