この記事の結論
・流体解析とは、液体や気体の流れをコンピュータで再現する手法で、ナビエ・ストークス方程式と連続の式(質量保存式)の組み合わせで成り立っています
・ナビエ・ストークス方程式は、ニュートンの運動方程式$\boldsymbol{F}=m\boldsymbol{a}$を流体に当てはめた式です
・流体を「非圧縮」とみなすことで計算が大幅に軽くなり、解析時間を短縮できます
流体解析(CFD)とは何か?
流体解析とは、液体や気体の流れをコンピュータ上で数値的に再現する手法で、CFD(Computational Fluid Dynamics:数値流体力学)とも呼ばれます。流速や圧力の分布を画面上で確認できるため、製品の設計や不具合の原因調査に広く使われています。
鋳造の湯流れ解析も、溶けた金属(溶湯)を流体として扱う流体解析の1つです。たとえば、トヨタシステムズが扱う鋳造CAEソフトTopCASTも、この基本方程式にもとづいて湯流れを計算しています。扱う流体が水でも空気でも溶湯でも、計算の土台になる基本方程式は共通しています。その中心となるのが、次に紹介するナビエ・ストークス方程式と連続の式です。
ナビエ・ストークス方程式とは何か?
ナビエ・ストークス方程式とは、ニュートンの運動方程式$\boldsymbol{F}=m\boldsymbol{a}$(力=質量×加速度)を流体に当てはめた式です。高校物理で誰もが習うあの式を、流体に応用したものにほかなりません。
今回扱うのは運動量保存形のナビエ・ストークス方程式で、次の形で表されます。
\begin{equation}
\frac{\partial (\rho\boldsymbol{u})}{\partial t}+\nabla\cdot(\rho\boldsymbol{u}\otimes\boldsymbol{u})=-\nabla p+\nabla\cdot\boldsymbol{\tau}+\rho\boldsymbol{f}\tag{$1$}
\end{equation}
ここで$\rho$は密度、$\boldsymbol{u}$は流体、$p$は圧力、$\boldsymbol{\tau}$は粘性応力テンソル、$\boldsymbol{f}$は単位質量あたりの外力です。$\frac{\partial}{\partial t}$は時間についての偏微分(=微小時間における変化の割合)、$\nabla$(ナブラ)は空間方向の変化の割合を表す記号です。
式(1)の左辺は、流体自身の勢いで進む働きである「慣性」を表しています。右辺は、流体が受ける次の3つの力です(式(1)の各項との対応は左図のとおりです)。
・圧力:押される力
・粘性:ドロドロとした摩擦による抵抗
・外力:重力など
連続の式(質量保存式)とは何か?
連続の式とは、流体が勝手に増えたり減ったりせず、総量が保存されることを表した式で、質量保存式とも呼ばれます。「入った分だけ出ていく」という当たり前のルールを、数式にしたものです。
\begin{equation}
\frac{\partial \rho}{\partial t}+\nabla\cdot(\rho\boldsymbol{u})=0\tag{$2$}
\end{equation}
流体の計算では、式(1)のナビエ・ストークス方程式に加えて、この式(2)を同時に扱う必要があります。
圧縮性と非圧縮性の違いとは?
非圧縮とは、「どれだけ力を加えても密度が変化しない」と仮定することです。この仮定を置くと数式が簡単になり、計算の負荷を大幅に減らせます。
式(1)と式(2)は流体の圧縮性も扱えますが、水や低速の空気など、日常生活で目にする流体は非圧縮として扱える場合がほとんどです。厳密に言えば流体もわずかに密度が変化しますが、マッハ数0.3(音速の0.3倍)以下の速度であれば、密度変化を無視して非圧縮に近似しても解析結果への影響がほとんどないことがわかっています。非圧縮として扱えないのは、飛行機のように高速の現象を扱う場合などです。
この仮定によって、本来は時間や場所で変化する複雑な「密度」を、計算上は一定の値($\rho$=一定)として扱えます。非圧縮に近似した場合のナビエ・ストークス方程式と連続の式は、次のようになります。
\begin{equation}
\frac{\partial \boldsymbol{u}}{\partial t}+(\boldsymbol{u}\cdot\nabla)\boldsymbol{u}=- \frac{\nabla p}{\rho}+\upsilon\Delta\boldsymbol{u}+\boldsymbol{f}\tag{$3$}
\end{equation}
\begin{equation}
\nabla\cdot\boldsymbol{u}=0\tag{$4$}
\end{equation}
式(3)は非圧縮のナビエ・ストークス方程式で、$\upsilon$は動粘性係数、$\Delta$(ラプラシアン)は周囲との差をならす作用を表す記号です。式(4)は連続の式と呼ばれ、「流速の発散がゼロ」、つまり流体が湧き出したり消えたりしないことを表しています。
圧縮性と非圧縮性の違いについては、「【流体解析入門9】圧縮性と非圧縮性の違いと使い分け」でも詳しく紹介しています。あわせてご一読ください。
なぜナビエ・ストークス方程式と
連続の式の両方が必要なのか?
未知数と同じ数の式がなければ解を求められないため、ナビエ・ストークス方程式だけでは足りず、連続の式を加える必要があります。
方程式で扱う物理量は、すでに値がわかっている既知変数と、まだわかっていない未知変数に分けられます。非圧縮のナビエ・ストークス方程式では、流速$ \boldsymbol{u}$と圧力$p$が未知変数です。一方、密度$\rho$や動粘性係数$\upsilon$は、扱う流体が決まれば値も決まる既知変数です(例:20℃の水の場合$\rho=998.2[kg/m^3]$、$\upsilon=1.003\times10^-6[m^2/s]$)。
3次元の場合、未知変数は流速の3成分($u$、$v$、$w$)と圧力$p$の4つです。ところがナビエ・ストークス方程式はx・y・z方向の3本しかないため、このままでは解けません。そこに連続の式を加えると、式が4本、未知変数が4つとそろい、流速と圧力を求められるようになります。
ナビエ・ストークス方程式は、
コンピュータでどのように解くのか?
ナビエ・ストークス方程式は、「離散化」という手順で連続的な式をコンピューターで計算できる形に変換して解きます。次回は、今回紹介した方程式をコンピュータに計算させる際に必要な、この離散化というプロセスを解説します。
今回紹介した2つの式は、流体の振る舞いを正確に言い表した式です。ただし、これらはあくまで「連続的な数式」であり、そのままではコンピュータが処理することはできません。連続した空間を有限の格子点に区切って計算する「離散化」の仕組みについて、次回詳しく取り上げ、次々回からはどのように流速$\boldsymbol{u}$と圧力$p$を計算していくのかを解説したいと思います。
よくある質問(FAQ)
Q1. 流体解析とは何ですか?
液体や気体がどのように流れるかを、流体力学の基礎方程式を用いてコンピュータ上で再現する解析手法です。CFD(数値流体力学)とも呼ばれます。
Q2. ナビエ・ストークス方程式とは何ですか?
ニュートンの運動方程式$\boldsymbol{F}=m\boldsymbol{a}$を流体に当てはめた式です。慣性と、圧力・粘性・外力という3つの力の釣り合いから、流体の速度を求めます。
Q3. 連続の式とは何ですか?
流体が勝手に増えたり減ったりしないという、質量保存の法則を表した式です。質量保存式とも呼ばれ、ナビエ・ストークス方程式と組み合わせて流速と圧力を求めます。
Q4. なぜ流体を非圧縮として扱うのですか?
マッハ数0.3以下の速度域では、密度変化を無視しても解析精度にほとんど影響がなく、計算の負荷を大幅に減らせるためです。
Q5. 湯流れ解析でも同じ式が使われますか?
はい。溶湯も流体として扱うため、基本となる式はナビエ・ストークス方程式と連続の式で共通です。実際の解析では、これに自由表面の扱いなどが加わります。